犬雑記帳

どこにでもいる文系修士課程2年生の日常と感情の記録

光文社古典新訳文庫と岩波文庫の比較 〈選択のための判断材料〉

まず最初に断っておきたいことがあります。

 

 

それは、私が読書初心者であるということです。

それゆえ、本全般に対する知識が非常に少ないのです。

 

 

「"読書初心者"とは何ぞや」と思う方は多いかもしれません。

この"読書初心者"という言葉には明確な概念はありません。私としては、"圧倒的に読書量が少ない人"であるということを表現したいのです。

 

私は、もうすでに成年ではありますが、読んだ本の数をほかの人と比べるならば、半分以下だと思います。昔から本を読むのは、学校の朝読書の時間くらいで、趣味で本を読むということは全くしてきませんでした。そのため、世間一般の人が読んだことがあるような作品を読んだことがなかったり、知らなかったりします。

 

"本"について語るとしても、自分のわかる範囲でしか語ることができず、またその"自分の分かる範囲"というのも、他の人に比べれば、非常に狭いです。

しかし、知らないくせに、色々と語りたいことが出てきてしまうのです。

 

 

ということで、私が分かる範囲で、"本"に関することについて語ってみたいと思います。

以上の事情に了解いただける方は、以下読み進めていただけたらと思います。

 

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最近になって初めて「光文社古典新訳文庫」を購入してみました。

購入したのは、カント(著),中山元(訳)『道徳形而上学の基礎づけ』(2012年)です。

 

もともと岩波文庫から出ている、カント(著),篠田英雄(訳)『道徳形而上学原論』(1976年)を読んだことはあるのですが、もう一度読み直して、理解しなおしたいと思い、光文社古典新訳文庫から出ている同著を購入しました。

 

この異なる2つの出版社から出ている、同じ作品を読んだことで、いくつかの違い(比較)があると思ったので、いくつか挙げてみたいと思います。


どちらが読みやすいか、どちらが良いかを判断するための材料となれば幸いです。

 

 

 

1 光文社古典新訳文庫は、訳が誰にでも分かりやすい

岩波文庫に対しては、一般に「とっつきにくい」とか、「難しい」といったイメージを持たれているようで、実際に私の周りにいる人も、そういったイメージを持っているようです。(だからこそ、読んでいることを自慢する人もいました。『お前らが難しいと思っている本を、おれは読んでるんだぜぃ~』みたいな意識から来ているのでしょうか。)

 

確かに、訳に関しては、言葉遣いが少し古めかしかったり、古語に近い部分もあったりして、さらっと読めるものではないと思います。一発で頭に入ってくる文章か、と聞かれれば、そうではなく、何回か返り読みしないと意味をきちんと理解することができない文章も多い、と答えることでしょう。

 

光文社古典新訳文庫は、とにかく訳が平易なものに改められていると感じます。カントの著作を読んでいる中で、特に理解に苦しまれる言葉である「悟性」「格率」といった言葉を使わず、わかりやすい言葉に換えて訳されているそうです。正直、これらの専門用語(?)の概念がある程度理解できていないと、外国語の文献を読んでいるような気分になるので、そのような難点を解消してくれるのは、本当にありがたいと思います。

 

また、私個人が一番理解に苦しんだ言葉である、「理性的な存在者」が何であるかが、この光文社古典新訳文庫を読んでようやくわかりました。

訳に、訳者による言葉の補いや、言い換えがされているために、そこまで立ち止まって苦しむことなく読み進めることができます。

この文庫の理念が、しっかりと体現されていると感じます。

 

 

岩波文庫の訳が分かりにくいと言っているわけではありません。

できる限り原文に近い訳が良いのならば、やはり岩波文庫がいいのかなと思います。光文社新訳古典文庫では、文章を平易にするために、言い換えたり、現代風の訳にしたりしていますから、多少原文とのズレは大きいのかなと思います。(あくまでも個人的な感想です。)

 

そもそも原文を読めば、翻訳によるズレのようなものを考える必要はないわけですよね。訳がしっくり来なくて、なおかつ意味が理解できない場合は、原文を引っ張ってきて、自分の言葉で訳しなおせばよい話です。

 

 

結論として、一概にどちらのほうがいいと言うことは、絶対にできません。自分にしっくりくる訳はどちらか、という基準で判断したほうがいいと思います。

 

 

 

2 岩波文庫は、タイトル数が多い

やはり岩波文庫は昔から発刊されているだけあって、タイトル数が多く、ジャンルも多岐にわたります。

光文新訳古典文庫は、2006年創刊(!)であり、まだ創刊14周年だそうです。それゆえ、まだタイトル数もそこまで多くありません。

 

それゆえ、岩波文庫からは出ていても、光文社新訳古典文庫からは出ていない作品というものがあります。例えば、岩波文庫では、イェーリング(著),村上淳一(訳)『権利のための闘争』(1982年)はあっても、光文社新訳古典文庫からはまだ出されていません。

また、ハンスケルゼン(著),長尾龍一・植田俊太郎(訳)『民主主義の本質と価値』についても、岩波文庫からは出ていますが、光文社新訳古典文庫からはまだ出されていません。

 

 

個人的な感覚ですが、岩波文庫の白(法律・政治)に分類されるような作品については、まだあまり光文社新訳古典文庫からは出されていないようです。

岩波文庫の白に分類される作品を読みたい人は、岩波文庫、もしくはほかの出版社という選択になりそうです。

 

 

3 光文社新訳古典文庫は、親切な解説がついている

 大学の授業やゼミで、その本を取り扱うわけではない場合、つまり独学でその古典を読む場合には、当然のことながら内容についての解説をしてくれたり、わからない箇所の質問に答えてくれたりする人がいるわけではありません。

そうすると、どうしても誤った理解をしたままになってしまうことも多いかと思います。

 

光文社新訳古典文庫には、巻末に丁寧で親切な解説がついているものが多いようです。(すべての本を調べたわけではないので、すべての本に解説がついていると断言することはできませんが、少なくとも中山元さんが訳されたカントの著作については、丁寧な解説がついているようです。)

 

『道徳形而上学の基礎づけ』について言うならば、本当に解説が分かりやすかったです。なにより、現代的な要素に、カントの哲学を落とし込んでくれているところが本当にありがたいのです。また、カントの言葉を使いながら、中山さんの言葉で解説してくださっているという感じで、わかりやすく、大変理解の助けになりました。なんと、解説に、その本の半分に近い量を割いてくれています。

 

つまり、この光文社新訳古典文庫では、まず先に本体の文章を読んで、その後に解説を読むことによって、自分の誤った理解を改めるとともに、より深い理解(『最初に読んだ時はいまいちよく分からなかったけど、なるほどそういうことだったんだ!』のような感覚)を得ることができると思います。

 

もちろん、解説を読んでから、本体の文章を読むのもいいと思います。忙しいときや、先に前提となる知識を理解してから読みたいときに良いと思います。

 

 

4 その他、個人の趣味によって左右されるもの

個人の持っている感覚によって、どちらの文庫が好きか、左右されるものとして以下のものがあると思います。

 

文字の読みやすさ

岩波文庫には、ギュッと文字が詰まっているものや、やたらと字が細かいものなど、さまざまなレイアウトのものがあります。行間が詰まっていると、読みづらいと感じる人も多いかもしれません。実際に、私は行間が詰まっていて、なおかつ字が小さいと読みづらく、ストレスを感じてしまいます。

 

逆に、光文社古典新訳文庫は、読みやすさに気を遣っているだけあって、文字のレイアウトにも気を遣っているように思われます。

『道徳形而上学の基礎づけ』に関して言えば、光文社新訳古典文庫のほうが読みやすいと感じました。

 

表紙のデザイン

現在、"パケ買い"という言葉が存在しますが、それくらいパッケージ、見た目は、販売戦略において重要な要素なのかもしれません。

 

岩波文庫は、伝統を感じさせるデザインだと思います。余計な要素など一切なく、タイトルがドーンとあって、なぜか左寄りに本の紹介が、絵の周辺に書いてあるというデザインですが、私はこのデザインがすごく好きです。落ち着いていて、知性を感じさせてくれるからです。また、本棚に並べた時の統一感も非常に素晴らしいです。作品の分類によって、背表紙の色がはっきりと分かれているのも、また良いなと思うのです。

岩波文庫の作品の分類方法

 

 

光文社新訳古典文庫は、人の顔のようなものが大きくデザインされており、タイトルが書かれています。このタイトルが一律に本の上部に置かれていないところが現代的だと思います。また、こちらについても、作品の分類のためにカラーリングがされています。岩波文庫とは異なる分類方法で、作品の言語圏別に分類されているそうです。

光文社新訳古典文庫の分類方法

 

また、その他の違いとして、岩波文庫は天(本の短辺の上の部分)がアンカットになっているのに対して、光文社新訳古典文庫はきれいに切りそろえられていること、岩波文庫は表紙がツルツルなのに対して、光文社新訳古典文庫は少しスベスベ?なにか透明な膜がかかっているような感じがすること、など小さな違いがあります。

 

 

5 まとめ

岩波文庫と、光文社古典新訳文庫、どちらが読みやすいか、どちらが良いか、については、

あなたの好みで決めればよいと思います。


あくまでも私がこれまで書いてきたことは、どちらの文庫が欲しいかを判断してもらうための一種の材料であって、『Xの文庫のほうが良いから、Xの文庫を買いなさい!』と言うものでなければ、文庫の批判をしているものでもありません。

 

 

私個人がどのようにして、どちらの文庫を買うかを判断しているかというと、読みやすさと訳のわかりやすさを基準にして考えています。(俗な欲求としては、本棚を岩波文庫の背表紙で埋めてみたいと思っているのです…(苦笑))

 

文字のレイアウト的に読みづらそうだったり、解説が欲しかったりするときは、光文社新訳古典文庫で買おうと思っています。しかし、岩波文庫からしかその作品が出ていない場合や、解説なしで本文だけ読みたいと思うときは、岩波文庫で買おうと思っています。